賃貸住宅の退去時における原状回復について、その範囲や費用負担をめぐるトラブルが増加し、大きな問題となっています。
そこで、国土交通省では「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を発行し、原状回復をめぐるトラブルの未然防止と円滑な解決へ向けて、妥当と考えられる一般的な基準を示しています。
このガイドラインには法的な強制力はありませんが、原状回復の考え方の指針となっています。
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると原状回復とは、借主が「借りた当時の状態に戻す」ということではありません。
ガイドラインの考え方では建物の損耗等を建物価値の減少と位置づけし負担割合等のあり方を検討する際に理解しやすいように損耗等を下記の3つに区分しています。
「原状回復」とは「賃借人の住居、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗毀損を復旧すること」とし、その費用は賃借人負担となりますが、常の使用による損耗や年数が経ったことによる自然損耗の修繕費用は月々の賃料に含まれているものであり、借主に原状回復義務はないとされています。
BやA(+B)の場合であっても、自然損耗や通常損耗の分は、賃借人は賃料として支払ってきているので、全額を負担することはなく、また建物や設備の経過年数を考慮し、年数が多いほど賃借人の負担割合を減少させるという考えを採用しています。
この考え方でいくと、新築物件でない場合には、問題が生じます。それは、設備等によって補修・交換の実施時期はまちまちであり、そのことを賃貸人や管理業者等が完全に把握しているケースが少ないこと、入居時に経過年数を示されても賃借人としては確認できないことなどです。
一方、賃借人がその物件に何年住んだのかという入居年数は、契約当事者にとっても、管理業者等にとっても明確でわかりやすい数値です。
そこで、経過年数のグラフを、入居年数で代替する方式を採用しています。新築やリフォーム直後であれば、入居時点の設備等の状況は、価値を100%として耐用年数の期間で10%が下限にくるようにグラフを作ります。ただ、入居時点の設備等の状況は、必ずしも新品ではないので、その状況に合わせて経過年数のグラフを下方にシフトさせて使用することになります。
その際の判断基準は、建築後の経過年数や個々の損耗等によって変わってきます。
建物本体と同様に長期間の使用に耐えられる部位で部分補修が可能なもの(フローリング等)は、経過年数を考慮することにはなじまないと考えられます。
フローリングを例にとると、補修を部分的に行ったとしても、将来的には全体を張り替えるのが一般的であり、部分補修がなされたからといって、フローリング全体としての価値が高まったと評価できるものではありません。したがって、部分補修の費用全額を賃借人が負担しても、賃貸人がその時点におけるフローリングの価値(経年変化や通常損耗による減少を考慮した価値)を超える利益を獲得することにはならないので、経過年数を考慮する必要はないという考えです。
また、ふすま紙や障子紙、畳表といったものは消耗品としての性格が強く、毀損の軽重にかかわらず、価値の減少は大きくなります。そのため、減価償却資産の考え方を取り入れることはなじまないので、経過年数を考慮せず、張替え等の費用について毀損等を発生させた賃借人の負担とするのが妥当と考えられます。
イメージ可能な限り、毀損部分に限定し、毀損部分の補修工事が可能な最低限度を施工単位とすることを基本とします。したがって、賃借人に原状回復義務がある場合の費用負担についても、その範囲内での補修費用相当分が負担対象範囲の基本となります。
明渡し当日に賃借人(退去者)が立会い「入退去時の物件状況および原状回復リスト」などをもとにお互いが確認したうえで、管理業者は、工事をリフォーム会社に発注します。ここでガイドラインを元に工事費用に関して退去者と貸主との負担割合を決め工事明細書を添付した敷金精算書を退去者に送付し、了解されたら敷金からの残余金があれば退去者に返金し、不足金が生じた場合は指定期間内に入金してもらうように依頼します。
原状回復の費用負担を賃借人に請求し、預り金の敷金から精算する実費方式が一般的となっていますが、大阪、神戸などの関西圏では入居時に敷金からあらかじめ修繕費を差し引く額を決めておく習慣(敷き引き、解約引き)というものがありますが、その適法性について、肯定する例と否定する例があります。消費者契約法の収支に反して無効とした実例もありますので注意が必要です。
敷引きの裁判事例
神戸地裁平成7年8月判決
建物の賃貸借契約が終了する際に敷金の一定額を控除する旨の特約は習慣としてそれなりの合理性が認められるとして公序良俗に反しないとされた事例最高裁平成10年9月判決
居住用の家屋の賃貸借における敷金につき、賃貸借契約終了時にそのうちの一定金額またはm一定割合に金員を返還しない旨のいわゆる敷き引き特約がされた場合であっても、災害により家屋が消滅して賃貸借契約が終了したときは、特段の事情がない限り、右特約を適用することはできないとされた事例大阪高裁平成18年7月
敷き引き特約は一般的にはゆうこうであるが、本件事案については、その趣旨を逸脱するため、消費者契約法に反し無効であるとした事例神戸地裁平成17年7月
敷き引き特約が一般的に消費者契約法に反し無効であるした事例
東京都は民間住宅に関して退去時の敷金の精算や入居期間中の修繕をめぐる紛争など、多くの相談が寄せられているため、都民の生活安定向上に寄与するてめ、宅建業者が住宅の賃貸借にともないあらかじめ明らかにすべき事項について、条例「東京都における住宅の賃貸借に係る紛争防止に関する条例」を規定し設けました(平成16年10月施行) また、東京都都市整備局は、今後関係団体と協議しながら、礼金・更新料のない契約の普及を進めていく旨を平成16年2月に発表し、さらに同年7月には東京独自のガイドラインを作成しました。
部
位
床
畳
フ
ロ
|
リ
ン
グ
カ
|
ペ
ッ
ト
等
・エアコン(賃貸人所有)から水漏れし、賃借人が放置したため腐食
(考え方)エアコン等の保守は所有者が実施すべきものであるが、水漏れを放置したり、その後の手入れを怠った場合は、通常の使用による損耗を超えるものと判断されることが多い。
建
具
ふ
す
ま
柱
等
設
備
そ
の
他
ク
ロ
ス