事件名:管理費用等支払請求事件
裁判所:東京地方裁判所八王子支部
判決日:平成5年2月10日
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マンション名:国立ダイヤモンドマンション | |||||
事件番号 | : | 平成2年(ワ)第635号 | 事件名 | : | 管理費用等支払請求事件 |
裁判所 |
: | 東京地方裁判所八王子支部 | 判決日 | : | 平成5年2月10日 |
掲載文献 | : | 判例タイムズ815号198頁 |
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判示事項 | : | マンションの建設、分譲をした会社が作成した管理規約につき、区分所有者の一人を除き全員が異議なく承認したことを理由に、右規約が反対者に対しても規範的効力を有するとされた事例 |
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第一審 | : | ![]() |
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参照条文 | : | ||||
引用判例 | : | 東京地方裁判所 平成2年5月31日 建物専有部分使用目的確認等請求事件、同反訴請求事件 |
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被引用判例: | 東京地方裁判所 平成5年2月26日 管理費等請求事件 |
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訴訟の背景と経緯
国立ダイヤモンドマンションは、東京都立川市に昭和60年に、元地主の区分所有者Bと丸善建設により等価交換方式によって建設された、総戸数28戸/地上8階/地下1階建てのマンションです。
区分所有者Bは、マンションの地下1階の倉庫、事務室、休憩室および1階店舖部分の区分所有権を取得しました。丸善建設はマンション分譲に際して、あらかじめ作成したマンション管理規約(公正証書で設定)、使用細則を区分所有取得者に示して説明し(重要事項の説明)、区分所有者Bを除いて承諾をとっていました。区分所有者Bは管理費、補修積立金の支払を拒否していたので、丸善建設は被告・区分所有者Bに対して、管理規約を説明したり、承諾を求めることはしませんでした。
昭和60年8月頃には、区分所有者Bを含む全区分所有者で管理組合が組織されました。区分所有者Bを除く各区分所有者らは本件管理規約に従って管理費、補修積立金支払いを承諾しており、昭和60年8月31日付けで本件マンション管理組合(代表者は当時の理事長)が丸善管理と管理委託契約を締結しました。
昭和61年2月15日から、管理組合の委託により丸善管理による管理が開始され、その後、毎年開催される区分所有者の集会にて、丸善管理が収支・予算報告が行われ、承認を得ていました。(例年の予算には区分所有者Bの管理委託費が含まれており、丸善管理が立替えを継続していた。)
管理費・補修積立金の拒否していた区分所有者Bは等価交換契約の際に丸善建設のS部長から免除を得たと信じており、管理規約通りの支払いを求める管理組合との間に意見の対立が生じました。昭和63年10月、丸善建設のS部長が区分所有者Bと他の区分所有者に対して、区分所有者Bへの管理費、補修積立金免除の事実はないと説明しました。
平成4年11月1日、区分所有者の臨時総会が区分所有者Bの出席のもとで開催され、4分の3以上の法定多数で原始規約発行日を、管理規約第39条に規定する昭和61年1月末日と承認し、遡及させることを可決しました。
そこで、管理組合Aが原告となり、区分所有者Bに対して主位的請求(※1)として「管理規約に基づき管理費・補修積立金および遅延損害金の請求。ただし、遅延損害金は年12パーセントの利率(管理規約による(※2))」予備的請求(※1)として「不当利得(※3)ないし管理規約の遡及適用の決議(※4)に基づき管理費・補修積立金および遅延損害金の請求。ただし、遅延損害金は年5パーセントの利率(民法第404条による(※5))」を提訴しました。
裁判所は「管理費、補修積立金に関する本件管理規約は本件マンションの管理が開始された前後に、被告を除く各区分所有者全員が暗に異議なく承認した結果、本件マンションの管理規約として区分所有者全員に対して規範的効力を有することとなったものとみるのが相当である。」とし「本件マンションにおける共用部分中にはたしかに被告が使用せずにすむものもあるが、全体的にみれば、これら共用部分は被告を含む本件マンション区分所有者全員の共用部分であり、共有の資産として、全体の管理に服するとする方が望ましく、被告も共用者、共有者の一人として本件管理規約の定めによる管理費、補修積立金を支払うベきである。」とし、主位的請求を容認しました。
本件マンションは区分所有者Bの希望をいれて、2階以上の分譲住居部分と地下1階および1階の被告専有部分をできるかぎり独立・分離するように設計されていました。
その結果、1階の被告専有部分の店舗と1階のほかの部分、すなわち2階以上の住居部分のためのエントランスホール、集合郵便受、管理人室、エレべーターおよび非分譲の他の店舖部分がコンクリートの壁で区分されていました。上水道は本件マンションの3つの量水器に分れて接続され、そのうちの1本は共用のゴミ集積場に、1本は被告店舗用に、1本は住居用の受水槽(これは地下1階にある)に接続し、この受水槽の水は揚水ポンプで屋上の高架水槽に入り住居に配水されるようになっており、ガスは被告店舗用とほかの住居部分に直接、分岐配管されていました。
管理委託契約書には、タイプ別管理費が記載されていましたが、住居、店舗、倉庫を問わず、1平方メートル当たり一律に200円(当初の案では地下一階部分は一平方メートルあたり65円であったが、後に200円に修正された)でした。
管理組合は提訴において主位的請求と予備的請求を行いました。主位的請求は、管理規約に則って遅延損害金(年12パーセントの利率による)などを請求しています。しかし、管理規約を区分所有者が可決承認したのが分譲から6年後でしたので、管理規約の法的効力を考えて予備的請求もしたものと考えられます。予備的請求は、区分所有法第30条(※6)、民法第404条(※5)に則り遅延損害金(年5パーセントの利率による)などを請求しています。
※1. | (裁判所の判断と判決 ※3) 主位的請求とは、原告が第一に求める請求であり、予備的請求とは、主位的請求が、認められない場合に備えて、二次的に求める請求。 | ||||||
※2. | 管理規約によると、遅延損害金は管理費、補修積立金ともに年12パーセント | ||||||
※3. | (原告管理組合の主張として) 本件マンションでは昭和61年2月15日以降、専有面積1平方メートル当たり月額200円の管理費の支払い、その1割相当の補修積立金の積み立てが行われてきているが、被告は昭和61年2月15日以降、これらの費用を全く支払ってはいないから、毎月200円にその合計専有面積を乗じた7万円およびその1割に当たる7000円、合計7万7000円の不当利得を得ているとされた。 | ||||||
※4. | (原告管理組合の主張として) 仮に昭和61年1月以前に本件規約が適法に成立していなかったとしても、本件マンションにおいては平成4年11月1日の臨時総会において、本件管理規約を可決承認すると同時に、その発効日を同条39条に規定する昭和61年1月末日に遡及させることを法定多数で可決した。 | ||||||
※5. | 民法第404条(法定利率) 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。 |
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※6. | 区分所有法第30条(規約事項)
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原告の主張(管理組合A)
● | 管理規約に基づき管理費・補修積立金の請求および、管理規約に基づき遅延損害金(12パーセント)を請求する(主位的請求(※1))。 |
● |
不当利得ないし管理規約の遡及適用の決議に基づき管理費・補修積立金および遅延損害金(5パーセント)の請求する(予備的請求(※1)) |
被告の抗弁(区分所有者B)
● | 原始規約について適法に成立しておらず、承諾もしないし、説明も受けていない。 |
● | 専有部分は、他の区分所有者の専有部分と構造上・機能上はっきり区別されており他の区分所有者が共有している共有部分を区分所有者Bは使用できないので管理費を払う義務はない。 |
● | 等価交換契約に際し、管理費および補修積立金全額の支払いの免除を丸善建設のS部長から受けた。 |
争点
・ | 原始規約は適法に成立しているか否か? |
・ | 被告が使用しないという理由によって、マンションの資産価値を構成する住居部分の共用部分管理費を免除できるのか? |
・ | 等価交換契約の際に丸善建設から管理費および補修積立金全額の支払免除を受けているという被告の主張が根拠になるのか? |
裁判所の判断と判決
今回の判例では、分譲業者が設定した原始規約が、区分所有法第45条(※1)の手続き要件(全員の書面による合意)を満たしていないにもかかわらず、被告を除く区分所有者全員が、承認した結果、区分所有者全員に対して規範的効力(※2)を有すると判断されました。また、共有部分は、被告を含む区分所有者全員の財産であり、その財産を管理するために、規約に定めた管理費・補修積立金を支払うベきであると裁判所は判断しました。
管理規約を区分所有者が総会で承認したのは分譲されてから6年後で、管理規約の分譲時からの法的効力を懸念してか、主位的請求(※3)は管理規約に則って請求し、予備的請求(※3)は区分所有法や民法に則って請求を行いました。
● | 管理規約の昭和61年1月末日発効を異議なく、承認して、その効力を確認する決議をなした(被告が丸善建設から管理費、補修積立金の免除を受けておらず、また管理費が床面積一平方メートル200円と全員平等に定められている以上、この決議については被告の承諾は不要と解する)ことが認められる。 |
● | 管理費、補修積立金に関する本件管理規約は本件マンションの管理が開始された前後に、被告を除く各区分所有者全員が暗に異議なく、承認した結果、本件マンションの管理規約として区分所有者全員に対して規範的効力(※2)を有することとなったものとみるのが相当である。 |
● | 共用部分は被告を含む本件マンション区分所有者全員の共用部分であり、共有の資産として、全体の管理に服するとする方が望ましく、被告も共用者、共有者の一人として本件管理規約の定めによる管理費、補修積立金を支払うベきである。 |
--- 主 文---
1. | 被告は原告に対し、昭和61年2月15日から毎月末日限り、月額金7万7000円の割合による金員及びこれら各金員に対する平成2年6月6日から支払いずみまで年12パーセントの割合による金員を支払え。 |
2. | 訴訟費用は被告の負担とする。 |
3. | この判決は仮に執行する(※4)ことができる。 |
東京地方裁判所八王子支部 平成5年2月10日 管理費用等支払請求事件>>
※1. | 区分所有法第45条(書面決議)
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※2. | 規範的効力 その内容を知っていると否とにかかわらず、また、その内容に同意していると否とにかかわらず、法律上当然に適用を受ける効力のこと。 |
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※3. | 主位的請求・予備的請求(訴訟の背景と経緯 (※1)で解説) | ||||
※4. | 仮に執行する 判決の確定前に仮執行の宣言に基づいてなす強制執行。 |
この判例による組合の留意点
■ 分譲業者による原始規約の書面決議設定には注意が必要です。
分譲業者などが「区分所有者全員の書面による合意があったときは、集会の決議があったものとみなす。(区分所有法第45条(※1))の拡大解釈により、原始規約にのみならず、理事長の選任や管理会社の選定など、極めて一方的な管理の運用が行われている実例があります。
本件は、分譲業者が設定した原始規約が、区分所有法第45条(※1)の手続き要件(全員の書面による合意)を満たしておらず、その効力が争点となりました。
管理規約の設定方法は、管理組合の総会において、区分所有者および議決権の4分の3以上の多数決議により設定されるのが本則であり、原始規約などの書面決議による設定は、あくまでもその例外として要件を厳格に満たした場合のみに限定されます。
区分所有法において、下記のように管理規約は規定されています。
@ | 管理組合の集会において区分所有者および議決権の4分の3以上の多数決議により設定(区分所有法第31条(※2)) |
A | 分譲業者が分譲時に単独行為で作成された管理規約原案(原始規約)に対して、個々の区分所有者から個別に承諾をとり、区分所有法第45条(※1)により、適法に決議がなされたとして設定 |
原始規約については、管理費や修繕積立金の設定や、共有部分管理の設定や、等価交換方式の元地主や分譲業者や、その子会社に対して一方的に有利な内容で規定されている場合があり、多くの紛争が発生しています。
--- 紛争事例 ---
今回の判例において
@ | 本件マンションにおいて設計段階から、被告の要望を取り入れ、2階以上の分譲住居部分と地下1階および1階の被告専有部分とは、できるかぎり独立、分離するように計画され施工されていること。 |
A | 分譲時にすでに、「被告が管理費・補修積立金負担を拒否」していることを分譲業者が把握し、重要事項の説明をしていない。 |
上記のことからみると、マンション建設を勧めていた分譲業者と被告との間で分譲前から「管理費・補修積立金負担」について、なんらかのやり取りがあったかもしれませんが、今回の判例からはそれを読み取ることはできませんでした。
等価交換方式によって建築、分譲された複合マンションにおいて、元地主である区分所有者と他の区分所有者らとの紛争であり、他の区分所有者らが暗に承認しただけで、総会決議も行われていない、規約の設定も承認されていない規約が、総会決議の反対者に対しても効力をもつかが争点になりました。(管理費・補修積立金負担を立替えていた管理会社と元地主である区分所有者とのの間では、紛争はありませんでした。)
規約の手続き要件を満たしていない規約でしたが、裁判所の判断は、管理費等の負担を肯定するための救済的な判断といえ、判例としての拘束力・影響は少ないといえるでしょう。
※1. | 区分所有法第45条(裁判所の判断と判決 (※1)で解説) | ||||
※2. | 区分所有法第31条(規約の設定、変更及び廃止)
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現行区分所有法(平成23年5月25日法律第53号 改正)
区分所有法第45条(書面又は電磁的方法による決議)
1. | この法律又は規約により集会において決議をすべき場合において、区分所有者全員の承諾があるときは、書面又は電磁的方法による決議をすることができる。ただし、電磁的方法による決議に係る区分所有者の承諾については、法務省令で定めるところによらなければならない。 |
2. | この法律又は規約により集会において決議すべきものとされた事項については、区分所有者全員の書面又は電磁的方法による合意があつたときは、書面又は電磁的方法による決議があつたものとみなす。 |
3. | この法律又は規約により集会において決議すべきものとされた事項についての書面又は電磁的方法による決議は、集会の決議と同一の効力を有する。 |
4. | 第三十三条の規定は、書面又は電磁的方法による決議に係る書面並びに第一項及び第二項の電磁的方法が行われる場合に当該電磁的方法により作成される電磁的記録について準用する。 |
5. | 集会に関する規定は、書面又は電磁的方法による決議について準用する。 |
区分所有法第31条(規約の設定、変更及び廃止)
1. | 規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。 |
2. | 前条第二項に規定する事項についての区分所有者全員の規約の設定、変更又は廃止は、当該一部共用部分を共用すべき区分所有者の四分の一を超える者又はその議決権の四分の一を超える議決権を有する者が反対したときは、することができない。 |