事件名:管理費請求事件
裁判所:東京地方裁判所
判決日:平成5年11月29日
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マンション名: メゾン平河 | |||||
事件番号 | : | 平成4年(ワ)第6597号 | 事件名 | : | 管理費請求事件 |
裁判所 |
: | 東京地方裁判所 | 判決日 | : | 平成5年11月29日 |
掲載文献 | : | 判例時報1499号81頁 |
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判示事項 | : | 1.区分所有者集会における管理者の選任決議が有効とされた事例 2.区分所有者集会における管理費に関する決議のうち専有部分の電気料、水道料に関する決議が無効とされた事例 |
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第一審 | : | ![]() |
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参照条文 | : | ||||
被引用判例: | 大阪高等裁判所 平成20年4月16日 管理費等請求上告事件 |
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訴訟の背景と経緯
昭和44年4月に東京都世田谷区で分譲された総戸数不明のマンションです。
本件マンションの分譲業者は、分譲時に区分所有権を順次分譲販売するとともに、一部の専有部分は、賃貸するため、分譲せずに所有していました。また、マンションおよび敷地等の共用部分の管理業務を行うため、分譲業者は区分所有者・賃借人との間で、管理契約を締結し、適宜定めた管理費等を徴集しマンションおよび敷地等の共用部分の管理業務を行っていました(また、同時に区分所有法上の管理者とする旨を書面で合意したと主張しています。)。
平成3年6月ごろ、分譲業者の一方的な管理費の値上げにより区分所有者らに不満が出だし、これまで開かれたことがなかった、区分所有者集会を開催しようとの機運が区分所有者間で盛り上がりました。全区分所有者13名のうち、分譲業者と訴外区分所有者Kを除く11名は、区分所有法第34条5項(※1)に基づきT弁護士(区分所有者)を代理人とし招集者となって、平成3年7月9日付け書面により、各区分所有者に対して、管理者の選任等を議題とする区分所有者集会の招集の通知を発しました。
平成3年7月24日、本件第一集会が開催され、Kを除く全員が出席し(うち2名が委任状)区分所有法25条(※2)に定める管理者の選任の件を討議し、出席者中、分譲業者を除く全員の賛成により、区分所有者A(法人(※3))および区分所有者Bを管理者として選任することが決議されました(※4)。
管理者に選任された区分所有者Aと区分所有者Bは平成3年12月6日付書面により、各区分所有者に対し、「本件マンションの管理の方法、管理費の決定および徴収の件等」を議題とする区分所有者集会の招集通知を発し、平成3年12月16日本件第二集会が開催されました。同集会には、分譲業者を除く全区分所有者が出席し(うち3名が委任状)、管理費について(専用部分で消費した電気、水道に対しての使用料金を含む)(※5)の決議がなされました。分譲業者は、第二集会の開催の平成3年12月分から平成5年4月まで区分所有分の管理費を支払らいませんでした。そこで、管理者Aが原告となり、分譲業者に対して「滞納管理費2052万0922円の支払請求」「遅延損害金請求」「仮執行官晋(※6)」を提訴しました。
被告(分譲業者)からの反訴請求
分譲業者である被告は、駐車場と貸倉庫が、被告の専有部分であるにもかかわらず、原告が管理権を主張して妨害しているとし、行為の差止めと不法行為に基づく2017万1750円の損害賠償(もしくはは不当利得返還請求)を求める主張を「追加的請求」として反訴請求しました。
被告からの反訴請求は併合審理とならず別の事件として判例が編集されてます。
平成5年12月3日 東京地方裁判所 建物区分所有者集会決議実行妨害禁止請求
※1 区分所有法第34条5項(集会の招集)
管理者がないときは、区分所有者の5分の1以上で議決権の5分の1以上を有するものは、集会を招集することができる。ただし、この定数は、規約で減ずることができる。
※2 区分所有法第25条(選任及び解任)
1.区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によって、管理者を選任し、又は解任することができる。
2.管理者に不正な行為その他その職務を行うに適しない事情があるときは、各区分所有者は、その解任を裁判所に請求することができる。
※3 この法人は管理者として本訴訟の原告となっている。提訴時の法人代表取締役 Iは、分譲時の代表取締役Rから株式と経営権を譲渡されている。それに対し被告である分譲業者は「『区分所有権を第三者に譲渡するときは、予め被告に通知するものとし、被告は第三者に優先して譲受けの申込をすることができる。』旨の合意をした。しかし、当時の代表取締役Rは通知もせずにIへ会社ごとの売買を行った。」とし、「これは前記合意を潜脱する脱法行為であり、よって原告が持っている議決権は対抗できない。」と被告は主張した。
※4 議決権総数10000であり分譲業者の議決権数3880である。その他の賛成した区分所有者の議決権数は5871あり、議決権数の過半数を超え、また区分所有者13名中11名の賛成により可決した。
※5 平成3年12月16日第二回集会決議内容
1.管理者は、就任時にさかのぼり、かつ、将来にわたり、各区分所有者に対し、管理者及びこれに対する遅滞の日の翌日から完済まで日歩二銭の割合による遅延損害金を請求することができる。
2.各区分所有者に請求できる管理費の内訳は次のとおりとする。
(1) 基本管理費 登記簿上の専有面積1u当たり500円
(2) 設備機器保守料 登記簿上の専有面積1u当たり100円
(3) 冷暖房空調費 登記簿上の専有面積1u当たり400円に消費1m³(個別メーター検針)当たり960円を加算した額。ただし、個別メーターが設置されていない専有部分及び個別メーターが設置されていてもメーター制を選択する旨の申出がない専有部分については、当分の間、消費量のいかんにかかわらず、専有面積1u当たり800円の定額とする。
(4) 給湯費 専有面積1u当たり150円に消費1m³(個別メーター検針)当たり1400円を加算した額。ただし、個別メーターが設置されていない専有部分及び個別メーターが設置されていてもメーター制を選択する旨の申出がない専有部分については、当分の間、消費量のいかんにかかわらず、専有面積1u当たり200円の定額とする。
(5) 電気料 管理者所定の基本料のほかに消費1kw(個別メーター検針)当たり26.42円
(6) 水道料 管理者所定の基本料のほかに消費1m³(個別メーター検針)当たり545円
(7) 清掃料 管理者が定める分担額
(8) 駐車料・倉庫料 管理者が定める金額(当分の間、平成3年6月現金の各人の負担応諾額と同額とし、応諾額がないもの又は応諾額が著しく他と均衡を失すると認めるものについては、別途合意ができない限り、駐車料は契約1台当たり8万円にその3%相当額を加算した額とし、倉庫料は契約1区画当たり2万円にその3%相当額を加算した額とする。
(9) その他の諸料金 管理者が合理的裁量に基づき定める額
※6 仮執行官晋(原告の主張(※1)、裁判所の判断と判決(※1))
判決の確定前に仮執行の宣言に基づいてなす強制執行。
原告の主張(新管理者)
1.被告は、区分所有者とではなく、居住使用者との間で管理業務の委託契約を締結をしただけであって、それをもって管理者に選任したことにはならない。よって、被告以外の区分所有者全員は、第一集会における管理者選任の議決権行使を行った。また、管理者選任の議決権行使は、被告との管理業務委託契約を解除する意思表示を含む。
2.会社の株式売買が行われたことは区分所有権の売買に当たらない。仮に被告に優先的買受権があるとしても、これを行使していないから、被告の主張である「原告の"3060の議決権"は被告に対抗することができない。」という主張には理由がない。
3.被告が徴集してきた管理費の中で、一部の区分所有者が滞納し、その債権をもって本訴請求債権と対等額で相殺すると主張しているが、相殺関係に立つものではない。
4.被告の滞納管理費2052万0922円の支払請求。また、滞納管理費のうちの666万3711円に対し平成4年5月12日から、支払が完了するまで日歩二銭の割合による損害金請求。ならびに、滞納管理費のうちの1385万7211円に対し平成5年4月27日から、支払が完了するまで日歩二銭の割合による損害金請求。
5.訴訟費用は被告の負担とする。
6.仮執行官晋 (※1)
被告の反訴請求についての抗弁
1.被告の反訴請求には異議がある。
被告の抗弁(管理者と主張する者)
1.被告は、分譲時に各区分所有者と書面により管理業務の委託契約を締結したと同時に、区分所有法上の管理者とする旨を書面で合意したものであり、管理者に選任されたことになる。したがって、本件第一集会は、管理者の招集により開催されていないので、そこで行われた管理者選任の決議は無効である。また、議決権行使を委任していないKの議決権を、原告が代理行使したことは違法である。
2.被告は分譲時に原告(当時の代表R)との間で「区分所有権を第三者に譲渡するときは、予め被告に通知するものとし、被告は第三者に優先して譲受けの申込をすることができる」旨の合意をした。その後Rは、被告に何らの通知をすることなく、現在の代表取締役であるI に原告の株式を譲渡している。よって会社ごとの売買を行ったものであり、実質的には、物件処分による所有者の交替であって、前記合意を潜脱する脱法行為である。よって原告の"3060の議決権"は被告に対して主張することはできない。
3.被告は、昭和44年4月以来、区分所有者全員から管理費の徴収を行ってきた。一部の区分所有者が平成3年4月から管理費を滞納しているが、その滞納金額が2218万7302円であり、その債権をもって本訴請求債権と対等額で相殺する。
4.被告が出席していない、区分所有者集会の多数決によって定められた管理費を、被告に請求することは、意思に反する債務を負担させられることになるので憲法第29条(※2)に違反している。駐車場および倉庫はいずれも被告の専有部分であるから、駐車料および倉庫料を請求することはできない。
反訴請求についての主張
1.駐車場と貸倉庫が、被告の専有部分であるにもかかわらず、原告は管理権を主張して妨害している。この行為の差止めと不法行為に基づく2017万1750円の損害賠償(もしくはは不当利得返還請求)を求める。
※1 仮執行官晋(訴訟の背景と経緯(※6)で解説)
※2 憲法第29条
1.財産権は、これを侵してはならない。
2.財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める。
3.私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。
争点
1.被告と区分所有者らとの間で個別的に締結された管理契約によって、被告を区分所有法上の管理者とみなすことができるか?
2.原告の株主や役員の変更は、区分所有権を第三者に譲渡したことになるか? また、原告の議決権は、被告に対抗できないのか?
3.本件第一集会において、議決権行使を委任していない区分所有者Kの、議決権代理行使は違法か?
4.平成3年7月24日に行われた第一集会の招集手続きは違法か?
5.平成3年12月16日の管理費を定める決議は無効か?
6.管理費の決議のうち専有部分の電気料、水道料に関する決議は有効か?
7.被告が、ある区分所有者に対して債権を有しているからといって、本訴請求債権と相殺関係にあるか?
裁判所の判断と判決
本件マンションの分譲業者で本件マンションの管理業務を行っていた区分所有者は、自分が管理者(理事長)であると主張していました。この区分所有者が管理費の値上げを一方的に行ったため、平成3年7月24日、その他の区分所有者ら全員が招集者となり、集会(総会)を開き区分所有者Aを管理者として選任し、平成3年12月4日の集会で新しい管理費の設定を行いました。そこで、平成3年12月分から平成5年4月分まで管理費を支払わなかった分譲業者に対して管理者が原告となり「管理費支払請求」「遅延損害金請求」「仮執行官晋(※1)」を提訴しました。裁判所の判断は「管理契約書には被告を区分所有法上の管理者に選任するとの趣旨を窺わせる条項は見当たらない」という理由から区分所有法上の管理者ではないと判断しました。また、原告らが行った総会の招集手続きには瑕疵がなく、管理者の選任は有効であるとし、その後行った管理費の決議も有効であるとしましたが、そのうち、専有部分の電気料と水道料と倉庫料は管理費には含めないと裁判所は判断しました。
1.被告は、分譲時に区分所有者らとの間で、管理契約の締結によって、各区分所有者が被告を区分所有法上の管理者と定める合意が成立したと主張する。しかし、管理契約書には、被告を区分所有法上の管理者に選任するとの趣旨を窺わせる条項は見当たらない。本件全証拠を検討しても、区分所有者全員との間で、もれなく管理契約書が作成されたが、必ずしも定かではなく、全員の書面による合意があったと認めることはできないから、管理者の選任について集会の決議があったとみなすことはできない。また、被告は、区分所有法上の管理者に義務付けられた、毎年一回の定期的業務報告をしていたとの形成も見当たらない(区分所有法第43条(※2))。被告自身も、原告を債権者、被告を債務者とする平成3年(モ)第16247号管理妨害禁止仮処分保全異議申立事件において、本件第一集会以前には、区分所有法上の管理者がいなかったことを認めていた。
2.株式会社である原告の株主や役員が全部変更されたとしても、そのことは区分所有権を第三者に譲渡したことにはならない。よって、被告が主張する「原告の議決権は、被告に主張することはできない。」は失当である。
3.被告の主張する「本件第一集会において、議決権行使を委任していない区分所有者Kの、議決権代理行使は違法」について、区分所有者Kの議決権が代理行使された事実は存在せず、被告の主張は失当である。
4.被告が管理者であったと認められないことにより、平成3年7月24日に行った集会の招集手続きが違法であるという被告の主張は失当である。
5.@原告および区分所有者Bは、平成3年12月6日付け書面により、各区分所有者に対し、本件マンションの管理の方法、管理対価額の決定および徴収の件等を議題とする区分所有者集会の招集通知を発した。A集会には、被告を除く全区分所有者が出席し(ただし、区分所有者S、区分所有者H、区分所有者Kは委任状による出席)。B議決権の総数は10000であり、そのうち被告以外の全員が6120票をもって賛成したことが認められる。よって平成3年12月16日の管理費を定める決議は有効である。
6.電気料、水道料について、本件マンションでは、区分所有者らが専有部分の電気、水道について電力会社等と直接契約を結んでおらず、建物全体で一括して全体の電気料、水道料を支払う仕組みになっている。 管理者としては各区分所有者が専有部分で使用した電気、水道の料金を各区分所有者から徴収する必要があることは明らかである。予め立替払契約を締結してその清算の方法を定めておくか、あるいは、その都度、実費を計算して求めるかのいずれかによって処理されるべきである。よって、区分所有者集会の決議(区分所有法第18条1項(※3))によってその額を定め、支払いを求めるべき性質のものではない。よって、原告は、決議に基づく管理費としては、電気、水道の料金を請求することができない。また、倉庫は被告の専有部分に属する旨を主張しているところ、本件全証拠をもってしても、共用部分であるか、被告の専有部分であるのかを的確に判断する資料がない。また、原告の請求金額が、いかなる計算根拠に基づくのかもはっきりしない。よって、原告が請求する倉庫料は認めることができない。
7.被告が主張する相殺の自動債権※4は、被告と管理費を滞納している区分所有者との間の管理委託契約に基づく債権である。原告が請求する債権は、本件マンション管理組合が被告に対して有する管理費請求権であり、原告個人あるいは他の区分所有者個人の債権でないことは明らかである。相殺の対象となる債権、債務の帰属者が異なっており、被告主張の債権の存否を判断するまでもなく、被告の相殺の主張には理由がない。
--- 主 文---
1.被告は、原告に対し、金1757万9448円及び内金569万8188円に対する平成4年5月12日から、内金1188万1260円に対する平成5年4月27日から、各支払済みまで日歩二銭の割合による金員を支払え。
2.原告のその余の請求を棄却する。
3.訴訟費用はこれを10分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4.この判決の第一項は仮に執行(※1)することができる。
被告の反訴請求について
1.被告の請求は、被告が区分所有法上の管理者たる地位にあるかどうか、管理者に選任されたか否かが審理の対象であるのに対し、追加的請求(反訴請求)は、被告の専有部分に対し原告が、管理権を主張し、駐車場および貸倉庫営業を妨害しているので、妨害差止と不貞行為に基づく損害賠償を求める内容である。従前の請求と追加的請求の間には、事実的にも法的にも関連性をみいだすことができず、請求の基礎が異なる。防御の方法と牽連性を欠いていることは明らかであり、これを許さないこととする。
--- 主 文---
1.原告と被告との間で、原告が、別紙物件目録一記載の建物に関し、建物の区分所有等に関する法律に定める管理者たる地位にあることを確認する。
2.被告の反訴請求を棄却する。
3.訴訟費用は本訴反訴を通じて被告の負担とする。
東京地方裁判所 平成5年12月3日 建物区分所有者集会決議実行妨害禁止請求>>
※1 仮執行官晋(訴訟の背景と経緯(※5)で解説)
※2 区分所有法第43条(事務の報告)
管理者は、集会において、毎年1回一定の時期に、その事務に関する報告をしなければならない。
※3 区分所有法第18条1項(共用部分の管理)
共用部分の管理に関する事項は、前条の場合を除いて、集会の決議で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
※4 自動債権
当事者双方が相互に同種の債権を有し、その債権を対当額の範囲で相殺する場合に、相殺の意思表示をした者が有する債権を自動債権という。(また、その意思表示をうけた相手方の有する債権を受動債権という。)
この判例による組合の留意点
マンションの分譲業者は、分譲時に原始規約を設定し、管理会社を指定します。指定される管理会社は、分譲業者のグループ会社が、有利な条件を提示した業務提携がある管理会社になるケースがほとんどです。分譲時から管理会社が変更されないままに推移すると、管理の質に比べて委託費が割高であったり、委託費を低く抑えて受託し、管理の質が担保されていない場合があります。あるいは、建物の瑕疵の責任の所在が曖昧で、管理会社が非協力的な場合も散見されます。
今回のケースでは、分譲業者が自ら管理者として一任されたと主張し、一方的に管理費の値上げを請求し、組合サイドに立たない横暴が、訴訟に発展する大きな要因だったと窺えます。
管理規約の変更や、管理会社が管理者であった場合の管理会社の変更は、手続き上、一般的にハードルが高いといえます。
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