事件番号 | : | 平成7年(ワ)第22034号 | 事件名 | : | 不当利得請求事件 |
裁判所 |
: | 東京地方裁判所 | 判決日 | : | 平成9年7月23日 |
掲載文献 | : | 判例タイムズ980号267頁 |
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判示事項 | : | マンションの立体駐車場から公道に通じる車路について立体駐車場所有者の承諾を得ずにその専用使用権を廃止する管理規約の変更が無効であるとされた事例 |
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第一審 |
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参照条文 | : | 区分所有法 第31条1項(※1) |
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引用判例 | : | 福岡高等裁判所 平成8年5月30日 駐車場専用使用権確認請求控訴事件 |
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訴訟の背景と経緯
分譲時期および戸数は不明のマンションです。
管理組合が原告となり分譲業者Aと敷地の一部所有者Bに対して「法律上原因なく(=駐車場で利益を得ているにもかかわらず、専用使用権のない車路を利用し、その対価を管理組合へ払っていない)無償で車路を使用しているとして、駐車場収入の1割(※1)相当額の返還」という訴えをおこしました。
マンションの立体駐車場の24/29をマンションの分譲業者Aが所有し、残りの5/29を敷地の一部所有者Bが所有していました。そして、敷地の一部所有者Bが、C株式会社にその持分権を譲渡していました。
マンションの他の部分と同じ構造上区分された車路は、駐車場から公道までの唯一の自動車用道路で、管理規約上専用使用権個所と規定されていました。
平成4年7月、総会において、この車路の専用使用権に関する規定を削除する決議をし、管理規約の変更をしました。その総会では分譲会社Aと一部所有者Bの了解は得ていませんでした。
※1. “駐車場収入”が何を指しているのか不明。“収入の1割”が何を根拠にしているのかも不明。
被告の分譲業者Aと敷地の一部所有者Bは、立体駐車場を分譲され、また、区分所有法が適用されているところから、同マンションの区分所有者であると推定されます。
>>『駐車場専用使用権分譲代金返還』ページの「組合の留意点」を参照原告の主張(管理組合)
立体駐車場と公道を結ぶ唯一の車路の専用使用権を総会決議によって廃止した。
その車路を利用するのであれば、駐車場収入の1割相当額を不当利益とし分譲会社と元の所有者Bに請求する。
被告の抗弁 (分譲会社・一部所有者B)
車路利用に関して、組合にとって不利益が発生することはなく、専用使用権廃止により被告の被る不利益のほうが格段に大きく、不当に利益を得ているわけではない。承諾もなく専用使用権の規約の変更は無効である。
争点
・本件車路を使用している駐車場の区分所有者にとっての必要性と、本件車路を使用しないマンションの区分所有者にとっての必要性とは?
・駐車場の区分所有者以外のマンション区分所有者が、車路の専用使用権を廃止する必要性と合理性とは?
・規約を変更するに当たり、駐車場の区分所有者とマンション区分所有者では、どちらが不利益を被るか?
裁判所の判断と判決
・規約変更の合理性ないしは、必要性と影響を受ける区分所有者の被る不利益との比較考量により、区分所有者法第31条1項(※1)を用いて判断するとし、専用使用権廃止により駐車場の共有持分権者、専用使用権者の受ける不利益が格段に大きいとし、「特別の影響が及ぶとき」であることを認め管理規約の変更を無効、不当利益の返還請求を棄却した。
--- 主 文 ---
1.原告の請求をいずれも棄却する。※1. 区分所有法31条(規約の設定、変更及び廃止)
1.規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
この判例による組合の留意点
● 区分所有者の権利に特別の影響が及ぶときは、総会決議は無効になります。
今回の判例で、専用使用権を廃止する旨の規約変更は、分譲業者Aや区分所有者Bの承諾がないまま一方的に変更され、駐車場の区分所有者とマンション区分所有者では、どちらが不利益を被るかという問題にたいして、区分所有者法第31条1項の「特別の影響が及ぶとき」にあたるとし、総会決議は無効という判決が出ました。
●分譲業者が、分譲時に決められた専用使用権に対し、不公平感をもつ管理組合でどのように対処したら良いのでしょうか?
平成15年6月1日施行の区分所有法では、規約の衡平に関して区分所有法30条3項「規約は、専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払つた対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない。」が追加されました。
●専用使用権の有償化は、総会決議で有効とされました。
平成10年11月20日最高裁で争われた『高島平マンション事件』では、専用使用権の有償化は有効か?ということが争点になりました。
専用使用権は一定の債務の元に認められる権利になります。
一定の債務とは社会通念上相当額とされる負担金と考えられることから、専用使用権の使用料などの有償化や増額の場合を検討する場合、まずは近隣相場を参考にし、その金額が社会通念上相当になるよう検討し、専用使用権を有する区分所有者や分譲業者と協議しましょう。
今回の裁判において、管理組合で立体駐車場の専用使用権を有償化する検討は、判例からは見受けられませんでした。専用使用権を廃止する議決よりも、専用使用権を有償化し相当金を求める方が管理組合にとって有意な判決が出ていたかもしれません。