事件名:駐車場専用使用権分譲代金返還請求事件
裁判所:最高裁判所第1小法廷
判決日: 平成10年10月22日
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マンション名:ミリオンコーポラス高峰館事件 | |||||
事件番号 | : | 平成8年(オ)第1559号 | 事件名 | : | 駐車場専用使用権分譲代金返還請求事件 |
裁判所 |
: | 最高裁判所第1小法廷 | 判決日 | : | 平成10年10月22日 |
掲載文献 | : | 最高裁判所民事判例集52巻7号1555頁|裁判所時報1230号247頁|判例タイムズ991号296頁|判例時報1663号47頁|金融法務事情1541号48頁 |
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判示事項 | : | マンション駐車場の専用使用権分譲の対価が分譲業者に帰属すべきものとされた事例 |
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判決要旨 | : |
マンション分業業者が、マンションの分譲に伴い、区分所有者の共有となるべきマンション敷地の一部に駐車場を設け、マンション購入者のうち駐車場の使用を希望する者に対して右駐車場の専用使用権を分譲し、その対価を受領した場合において、分譲業者が営利の目的に基づき自己の利益のために専用使用権を分譲したものであり、専用使用権の分譲を受けた区分所有者もこれと同様の認識を有していたなど判示の事情の下においては、分譲業者が区分所有者全員の委任に基づきその受任者として専用使用権の分譲を行った等と解することはできず、右対価は、専用使用権分譲契約における合意の内容に従って分譲業者に帰属すべきものである。(補足意見がある。) |
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第一審 | : | ![]() |
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控訴審 | : | ![]() |
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上告審 | : | ![]() |
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参照条文 | : | 区分所有法第1章第2節(※1) |
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引用判例 | : | 福岡高等裁判所 平成8年4月25日 駐車場専用使用権分譲代金返還請求控訴事件 |
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訴訟の背景と経緯
平成元年に福岡で分譲された総戸数32戸(うち一戸は未登記)のマンションです。
管理組合の理事長が原告となり分譲業者に対して「専用使用権付駐車場の分譲代金は管理組合に返還すべき」という訴えを起こしました。
分譲業者はマンション敷地の一部を専用使用権付駐車場(25区画 1区画あたり80万円〜110万円)として区分所有者に販売し、その専用使用権付駐車場代金(2440万円)を受領していました。
※. 予備的請求で争われた管理組合と分譲業者の委任・受任の関係
分譲業者は、管理組合が成立していない分譲時に 1.原始規約の作成 2.管理費・修繕積立金の額の設定 3.管理会社の決定、その他、マンションの管理に関する事項を作成・決定します。
しかし、それらはいずれも後には管理組合によって行われるべき事務であり、分譲業者は管理組合によって行われるべき事務を代行していることにより、委任事務処理にあたるとするならば、分譲業者と管理組合が、受任者と委任者の関係に当たります。
駐車場の専用使用権の決定が委任処理事務に当たるかどうかが、本判例の争点となりました。
平成10年の秋ごろ、専用使用権をめぐる裁判について相次いで最高裁判所での判決が言い渡されました。
平成10年10月22日判決(福岡県:ミリオンコーポラス高峰館事件)(本判決)>>
平成10年10月30日判決(福岡県:シャルマンコーポ博多事件)>>
平成10年11月20日判決(東京都:高島平マンション事件)>>
その他にも駐車場の専用使用権をめぐる分譲会社とのトラブルから、多数の判例がでています。
分譲会社が委任事務処理として原始規約や管理会社定めていますが、本判決後、区分所有法が改正され(平成15年6月1日施行)「規約の設定に当たっては、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定められなければいけない」(区分所有者法30条3項(※1))とされています。
今回の判例は上記の改正の起案になったと言っても過言ではありません。
分譲業者の行う不当な取引について、区分所有者法30条3項の解釈・適用を用いて処置できるとともに、公序良俗違反をめぐって新たな視点から問題にし、区分所有者間の利害の衡平が図れるようにしましょう。
原告の主張(管理組合)
● 分譲業者が、区分所有建物とは別に駐車場の専用使用権を分譲するのは不当利益だとして返還請求(第一審 棄却)
● 分譲業者と区分所有者は、委任、受任の関係により委任事務処理上の引き渡し請求権に基づく引渡請求(第一審・第二審で認容 最高裁で棄却)
被告の抗弁(分譲会社)
●マンションの専有部の分譲代金と同様に、駐車場専用使用権の分譲代金も分譲会社が受け取るべきである。(第一審で認容)
●駐車場の専用使用権の設定は、包括的に組合から委任され、かつ受任していない。(第一審・第二審で棄却 最高裁で勝訴)
争点
・マンション購入の際に、購入者は、専用使用権の性質、効力等、契約の基本的な部分について十分に理解した上で契約を締結したのか?また、分譲会社が専用使用権を分譲し、その対価を得ることについて、有効な合意が成立していたのか?
・分譲業者が購入者である区分所有者の無思慮(注意深く考えていないこと)に乗じて、専用使用権分譲代金で暴利を得て公序良俗に反したかどうか?
・駐車場専用使用権分譲契約において、区分所有者と分譲業者との間に、委任者と受任者の関係が成立するのか?
裁判所の判断と判決
・駐車場の専用使用権はマンションの分譲に伴い、マンション分譲業者が特定の区分所有者に販売したものであり、専用使用権を取得した特定の区分所有者は、駐車場を専用使用するにあたり、制限を受ける理由はない。
・専用使用権を取得しなかった区分所有者は、専用使用を承認すべきことを分譲時に認識かつ理解していたことは明らかである。
・分譲業者は自己の利益のために専用使用権を分譲、その対価を得たものであって、専用使用権の分譲を受けた区分所有者も同様の認識かつ理解していたものと解釈されることにより公序良俗に反したとは言い難い。
・マンションの分譲契約においては分譲業者が包括的に管理組合ないし区分所有者全員の受任者的地位に立つとしても、専用使用権の分譲までが含まれるとは言い難い。
--- 主 文 ---
1.原判決を破棄し、第一審判決中、被上告人の予備的請求に関する部分を取り消す。
2.被上告人の予備的請求を棄却する。
3.訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
この判例による組合の留意点
「専用使用権付駐車場の分譲代金は管理組合に返還すべきではないのか」という裁判において第一審・第二審における下級審では告訴した管理組合が全面勝訴し、分譲業者から返金された分譲代金は区分所有者に返還する主旨の判決がでました。しかし最高裁では、分譲業者の専用使用権販売を認める判決がでました。これは分譲業者が販売する専用使用権を規制する法律がなく、好ましいとはいえないが認めた形になりました。
この裁判の後には区分所有法の改正が行われ、区分所有者間の利害の衡平が図られるような規定が盛り込まれました。また、行政指導により、このような販売方法の自粛も一時的にみられました。
このプロセスをリアルスティックな視点からみると、政治・経済・行政などへの配慮から、分譲業者や不動産業界への打撃を最小限にとどめ、分譲業者よりの判決になったことも否めません。
もしこれが、民事裁判にも陪審員制度と集団訴訟のある訴訟社会アメリカなら、悪徳業者をやっつけ高額な賠償金まで勝ち取る管理組合のヒーロー的な弁護士が現れるかもしれません。
本裁判の遠藤光男裁判官の補足意見によると、本件におけるマンション販売方式ないしマンション管理業務に関連して「既に建設省が行政指導において明らかにしているように、このような販売方式は好ましいものではなく、速やかに根絶されなければならないと考える。」というコメントを残してます。
●区分所有者法では分譲会社の規制はできません。
平成14年区分所有者法改正法の法制審議会において、遠藤光男裁判官の補足意見でも触れられた駐車場専用使用権の本件の問題が重要な課題として審議されました。
しかしながら、区分所有者法は、区分所有者間の相互関係を規定する法律であり、駐車場専用使用権分譲の問題は、分譲業者とマンション購入者間との問題であることから、マンション外部の分譲業者等の相互関係は想定されていません。このため、区分所有法の中で分譲業者を規制する項目の検討は見送らざるおえず、規約の衡平に関して区分所有法30条3項(※1)「規約は、専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払つた対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない。」(平成15年6月1日施行)が追加されました。