事件番号 | : | 平成11年(ネ)第612号 | 事件名 | : | 破棄自判・上告 |
裁判所 |
: | 東京高等裁判所 | 判決日 | : | 平成11年7月27日 |
掲載文献 | : | 判例タイムズ1037号168頁 |
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判示事項 | : | 区分所有者が、規約によりマンション駐車場の有償による専用使用権を有していたが、その対価を支払わなかった場合において、右専用使用権を消滅させる旨の規約変更が有効であるとされた事例 |
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上告審 |
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参照条文 | : | 第31条1項※1 |
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引用判例 | : | 最高裁判所第2小法廷 平成10年11月20日 管理費等請求事件 |
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被引用判例: | 那覇地方裁判所 平成16年3月25日 総会決議無効確認請求事件 |
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訴訟の背景と経緯
分譲時期および戸数は不明のマンションです。
管理組合が原告となり分譲業者であるA株式会社に対して「専用使用権代金を滞納したため、滞納金支払いと駐車場の明渡し請求」という訴えをおこしました。
分譲業者であるA株式会社は、原始規約で専用使用権代金1000万円を修繕積立金として支払う前提で、自社に駐車場の専用使用権を認め、マンションを販売しました。
しかし、B管理組合の再三にわたる督促にも応じず、A株式会社は専用使用権代金1000万円を納付しませんでした。
そこで管理組合Bは、平成8年12月28日の臨時総会でA株式会社の専用使用権を消滅させ、A株式会社へ滞納分の専用使用権代金1000万円支払と、駐車場の明渡しの請求をおこしました。
第一審判決がB管理組合の請求を認容したため、A株式会社が控訴しました。
※ 被告のA株式会社は、区分所有法が適用されているところから、同マンションの区分所有者であると推定されます。>>『駐車場専用使用権分譲代金返還』ページの「組合の留意点」を参照
※1. 区分所有法31条1項(規約の設定、変更及び廃止)
規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
原告の主張(管理組合)
●駐車場専用使用権代金1000万円は修繕積立金として納付する旨が管理規約に定められており、それに基づき管理組合はA株式会社へ専用使用権代1000万円を請求。
●専用使用権の対価1000万円支払わないA株式会社の専用使用権の消滅は正当性があり、総会決議に基づき駐車場の明渡を請求する。
被告の抗弁(A株式会社)
●専用使用権代金1000万円の組合の請求に対して争わない。
●専用使用権の消滅を承認していないため、総会の決議は無効である。
●本件駐車場は、A株式会社の業務にとって必要不可欠で区分所有法31条1項の「特別の影響を及ぼすべきとき」にあたり、承認のない総会決議は無効である。
●明渡し請求には応じない。
争点
・専用使用権代金を支払わないのに、専用使用権を認めることができるか?
・承諾なしの専用使用権を消滅させる旨の決議は、区分所有法第31条1項の「特別な影響をおよぼす」にあたるか?
・駐車場が、分譲業者であるA株式会社の業務にとって必要不可欠であっても専用使用権の消滅ができるか?
裁判所の判断と判決
・専用使用権は、当初の管理規約においても、代金1000万円を支払わずに、本件駐車場を専用的に使用する権利まで認められていた訳ではない。
・被告人が代金1000万円を支払わない以上、控訴人が専用使用権を取得できないのは、当初の管理規約において既に定められていたものであって、専用使用権を消滅させる旨の決議は区分所有法第31条1項※1の「特別な影響をおよぼす」にはあたらない。
・専用使用権の代金を支払っていないので、規約変更を承諾しないことについて正当な理由があるとは認められない。
--- 主 文 ---
本件控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人の負担とする
この判例による組合の留意点
● 専用使用権は一定の債務の元に認められる権利です。
一定の債務とは社会通念上相当額※1とされ、その債務履行のもとに専用使用権は認められています。1000万円の専用使用権代金が社会通念上相当額だと推し量るには、このマンションの分譲時期や、分譲業者であるA株式会社が専有使用していた駐車場台数が不明なため判断できません。
マンション近隣の相場などを参考にし、専用使用権を使用するもの不利益の受忍限度を超えない金額とされる。>>『専用使用権の消滅・有償化について』ページの「組合の留意点」を参照
平成10年10月30日判決(福岡県:シャルマンコーポ博多事件) >>
平成10年11月20日判決(東京都:高島平マンション事件) >>
● 区分所有者の権利に特別の影響が及ばないとき、専用使用権消滅の総会決議は有効になります。
管理組合が主張した、専用使用代金1000万円支払請求と駐車場の明渡し請求が認容され、全面勝訴した判例です。分譲業者であるA株式会社は、駐車場の使用は業務にとって必要不可欠だと主張しましたが、規約変更を承認しない理由にはならないとされました。
結果的に、専用使用代金1000万円の支払と駐車場の明渡し請求を、裁判所は社会通念上相当額であり受忍限度内であると同時に、区分所有者の権利に特別の影響が及ばないと判断しました。