事件番号:平成7年(ワ)第619号
事件名 :損害賠償請求事件
裁判所 :神戸地方裁判所
判決日 : 平成7年10月4日 (1995-10-04)

判示事項:
建物区分所有者全員をもって構成される管理組合の理事長がその任務に背き管理組合に損害を与えたことを理由とする損害賠償請求訴訟における建物区分所有者の原告適格

被引用判例: (この判例を引用している判例一覧)
東京高等裁判所 平成8年12月26日 損害賠償請求控訴事件

参照条文:
民事訴訟法45条 (旧法令)
民事訴訟法47条 (旧法令)
民法423条
商法267条
建物区分所有法6条
建物区分所有法57条

掲載文献:
判例時報1569号89頁
:
商大論集 48(4)号517頁 管理組合の理事長に対する損害賠償請求訴訟における建物区分所有者の原告適格(神戸地裁判決平成7.10.4)

主 文

一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実

第一 当事者の求めた裁判一 請求の趣旨(主位的)1 被告は比須磨団地D一棟管理組合(神戸市須磨区《番号略》)に対し、金八四万四六〇〇円及びこれに対する平成六年五月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言。
(予備的)1 被告は北須磨団地D一棟管理組合(神戸市須磨区《番地略》)に対し、金一八万三三四〇円及びこれに対する平成六年五月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁主文と同旨。
第二 当事者の主張一 請求原因1 原告らは、別紙物件目録記載の建物(以下、本件建物という。)の区分所有者らであり、被告は本件建物の区分所有者全員をもって構成される北須磨団地D一棟管理組合(以下、管理組合という。)の理事長である。
2 管理組合第二〇回定期総会(平成五年五月二三日開催)において、全会一致で第四号議案が可決承認された。
その第四号議案中に、本件建物(昭和四九年七月二三日新築)の受水槽の改修工事(平成五年三月三日に金一八三万三四〇〇円の見積書作成)が含まれていた。
3 被告の責任被告は、管理者として善管注意義務に基づき管理組合の業務を執行する義務を負うにも係わらず、その義務に違反して何ら定期総会に基づく業務を執行せずにいた。
そのため、平成六年一月三〇日再度同工事費の見積もりを取ると受水槽の腐食がさらに進んでいたため、その額が金二六七万八〇〇〇円になってしまった。
これは被告の管理者としての注意義務に反した債務不履行である。
これにより、管理組合は右工事費の差額である金八四万四六〇〇円の損害を被ったことになる(主位的)。
4 なお、被告は、当初の見積金額どおりの金額で工事が完成したから損害は発生していないと主張するが、当初の見積金額は実際の改修工事費用よりも一割以上も余裕をもった金額を算出するのが通常であるから、当初の見積もりに従って業務執行していたならば、実際の工事費用は一割以上減額になっていたはずであるから、金一八三万三四〇〇円の見積金額の一割に当たる金一八万三三四〇円が損害である(予備的)。
5 よって、原告は、被告が管理組合に対し、金八四万四六〇〇円(予備的に金一八万三三四〇円)及びこれに対する平成六年五月二二日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 本案前の主張被害者は管理組合であるにもかかわらず、管理組合の意思を問うこと無く、管理組合に損害金を支払えとの権利発生根拠が不明である。
三 本案前の主張に対する原告の反論管理組合の役員は組合員との関係で委任または代理の法的性質を有するものであるから、理事長たる被告が組合業務の執行に当たって、これを故意または過失により履行せず、組合員に損害を与えたときは、債務不履行として損害賠償の責めを負うべきである。
そして、原告は債権者として、管理組合に対し民法四二三条により代位して、あるいは、取締役が会社に対して責任を負っている場合の個々の株主が会社に代わって取締役の責任を追求する代表訴訟(商法二六七条)を類推して、その責めを問えるものである。
第三 証拠《略》

理 由

一 原告らは、管理組合の構成員であるところ、管理組合の理事長は管理組合員から委任ないし代理を受けて組合総会の決議によって定められた業務等の執行をなすものであるから、その任務に背きこれを故意または過失によって履行せず、管理組合に損害を与えるようなことかあったときは、債務不履行となり、右理事長は管理組合に対して損害賠償の責めを負うべきことになる。
したがって、管理組合(ないし区分所有者全員)が原告となって右理事長に対して損害賠償を求める訴訟を提起することはできるが、管理組合の構成員各自が同様の訴訟を提起することができるかについては、建物の区分所有等に関する法律上、管理組合の構成員各自がその理事長に対する責任を問うことを認める旨の商法二六七条のような規定は存しないし、管理組合の構成員各自が民法四二三条により代位するという原告の構成もその要件を欠くというべきである。
そして、建物の区分所有等に関する法律(六条、五七条)は、共同利益違反行為の是正を求めるような団体的性格を有する権利については他の区分所有者の全員または管理組合法人が有するものとし これを訴訟により行使するか否かは、集会の決議によらなければならないとするように、区分所有者の共同の利益を守るためには区分所有者全員が共同で行使すべきものとしているところ、本件のように理事長の業務執行にあたっての落ち度を追及するような訴訟においても団体的性格を有する権利の行使というべきであるから右の法理が適用されるべきであり、一般の民法法理の適用される場面ではないものと解する。
以上より、本件建物の区分所有者らがその全体の利益を図るために訴訟を追行するには、区分所有者ら全員が訴訟当事者になるか、その中から訴訟追行権を付与された当事者を選定する等すべきことになるところ、そのような手続きを何ら踏んでいない原告らには本件訴訟を追行する権限はない。
なお、弁論の全趣旨によれば、原告山崎祗雄は本件訴訟提起後、本件建物から転居していることが認められ、現在は区分所有者らで構成する管理組合の構成員ではない。
したがって、原告山崎祗雄についてはこの意味でも本件訴訟の原告適格を欠くに至った。
二 以上の事実によれば、原告らには本件訴訟の原告となる権限がないから却下し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 山本善彦)